介護福祉士実務者研修とは? 初任者研修との違いや取得方法、研修内容を解説
また、実務経験を経て介護福祉士を目指すルートでは、国家試験の受験要件の一つとされています。
初任者研修との違い、取得のメリット、取得方法、研修の内容など、実務者研修の基礎知識を解説します。
■介護福祉士実務者研修(旧ホームヘルパー1級)とは
目標とするレベルは、介護福祉士養成施設における2年以上の養成課程の到達目標と同じとされています。
初任者研修とも共通する介護の基本知識・スキルのほか、「喀痰吸引(かくたんきゅういん)」や「経管栄養(けいかんえいよう)」といった医療的ケアについても学べるのが特徴です。
なお、喀痰吸引とは、利用者の口腔内、鼻腔内などにチューブを挿入して痰を吸引すること。
経管栄養は、口から食事をとれない利用者に対し、胃や腸に開けた穴にチューブを挿入して栄養補給をすることです。
実務者研修が設けられたきっかけは、2007年に社会福祉士及び介護福祉士法の一部改正によって、介護福祉士の資格取得の要件が見直されたことです。
介護福祉士の資質向上のためには実務経験者にも一定の教育課程が必要との考えから、実務経験ルートで介護福祉士の資格取得を目指す人に対し、3年以上の実務経験に加えて、実務者研修の修了を義務づけることが定められました(2017年以降に実施)。
2013年には、介護職のキャリアパスをより明確にするために、介護保険法施行規則の一部改正により、ホームヘルパー1級・2級・3級、介護職員基礎研修といった資格が廃止されました。
その代わりに、ホームヘルパー2級に当たる資格として初任者研修が生まれ、ホームヘルパー1級と介護職員基礎研修は、実務者研修に集約されたのです。
■介護職員初任者研修との違い
修了までにかかる期間は、初任者研修は最短1ヶ月程度ですが、実務者研修は6ヶ月程度が目安とされています。
ただし、初任者研修を修了している場合、一部の科目が免除されるため、受講時間は320時間、期間は4ヶ月程度になります。
実務者研修は、初任者研修に比べると学ぶ範囲が広く受講期間も長いうえ、専門性の高い内容が増えるので、取得のハードルはより高いといえます。
介護福祉士実務者研修を修了するメリット
■スキルが向上する
ある程度の実務経験がある人も、改めて介護の基礎から理論的に学ぶことで、普段の業務の仕方を見直し、スキルを高められるでしょう。
■就職・転職で有利になる
また、実務者研修には喀痰吸引等研修の基本研修が含まれているため、実務者研修を修了した人は、実地研修を受ければ、喀痰吸引等研修を修了できます。
喀痰吸引等研修を修了したうえで、都道府県に申請して「認定特定行為業務従業者」として認定を受けた介護職は、医療従事者の指示のもと、喀痰吸引や経管栄養を行うことができるようになります(ただし、勤務先が「登録喀痰吸引等事業者」である場合に限られます)。
看取りケアに対応している入居型施設のほか、訪問介護の現場でも、医療的ケアのニーズは高まっています。
実務者研修を修了していると、医療的ケアの基本スキルを備えた人材として優先的に採用されることもあるかもしれません。
■収入がアップする可能性がある
厚生労働省の調査によると、無資格の介護職の平均給与額が27万1,260円であるのに対し、初任者研修の修了者は30万510円、実務者研修の修了者は30万7,330円でした。
(※出典:厚生労働省「令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果」)
無資格の介護職が実務者研修を修了した場合、3万円程度、初任者研修の修了者が実務者研修を修了した場合、6,000円程度の収入アップが見込めることがわかります。
■介護福祉士の受験資格が得られる
したがって、3年以上の実務経験がある介護職が実務者研修を修了すれば、介護福祉士の受験資格を得たことになります。
■訪問介護事業所のサービス提供責任者を目指せる
サービス提供責任者は、訪問介護事業所の利用者が適切なサービスを受けられるように、関係者と連携しながらサポートする役割を担っています。
ケアマネジャーが作成したケアプランと利用者の要望などをもとに、訪問介護計画書を作成することも重要な業務の一つです。
ときには現場で介護業務にあたることもありますが、ホームヘルパーよりは身体介護の機会が少ないため、腰痛などで体への負担を軽くしたい人には適した仕事といえます。現場で働くヘルパーよりも給与が高いのも魅力です。
サービス提供責任者になるには、介護福祉士、実務者研修、旧ホームヘルパー1級のいずれかの資格を取得している必要があります。
介護福祉士実務者研修の取得方法
ここからは研修の内容や受講方法、保有資格による免除科目など、実務者研修の概要を紹介します。
■受講要件
年齢制限もありませんが、スクールによっては、16歳以上という条件を設けている場合があります。
■研修の内容
内容は、「人間と社会」「介護」「こころとからだのしくみ」、「医療的ケア」の4つの領域に分けられます。
領域 | 科目 | 時間 |
人間と社会 | (1)人間の尊厳と自立 | 5時間 |
(2)社会の理解Ⅰ | 5時間 | |
(3)社会の理解Ⅱ | 30時間 | |
介護 | (4)介護の基本Ⅰ | 10時間 |
(5)介護の基本Ⅱ | 20時間 | |
(6)コミュニケーション技術 | 20時間 | |
(7)生活支援技術Ⅰ | 20時間 | |
(8)生活支援技術Ⅱ | 30時間 | |
(9)介護過程Ⅰ | 20時間 | |
(10)介護過程Ⅱ | 25時間 | |
(11)介護過程Ⅲ | 45時間 | こころとからだのしくみ | (12)発達と老化の理解Ⅰ | 10時間 |
(13)発達と老化の理解Ⅱ | 20時間 | |
(14)認知症の理解Ⅰ | 10時間 | |
(15)認知症の理解Ⅱ | 20時間 | |
(16)障がいの理解Ⅰ | 10時間 | |
(17)障がいの理解Ⅱ | 20時間 | |
(18)こころとからだのしくみⅠ | 20時間 | |
(19)こころとからだのしくみⅡ | 60時間 | |
医療的ケア | (20)医療的ケア | 50時間 |
合計 | 450時間 |
演習では、人の形をした模型を使って、喀痰吸引や経管栄養の実技を行います。
また、「(11)介護課程Ⅲ」と「(20)医療的ケア」の演習は、通信ではなくスクーリング(通学)で学ぶ必要があります。
■受講方法
無資格の人が受講する場合、修了までに約6ヶ月かかります。
受講方法には、主に通学コース、通信コースの2種類があります。
実務者研修では、全450時間のうちほとんどを通信(自宅学習)で学べますが、45時間(日数にすると7~10日間程度)は、スクーリング(通学)が必要です。
通信コースを受講する人も、自宅から通いやすい場所にあるスクールを選ぶようにしましょう。
多くのスクールでは、スクーリング日を土日に設定したコースを用意しています。
■保有資格による科目の免除
例えば、初任者研修または旧ホームヘルパー2級を修了した人は、450時間の総時間数が320時間になります。
詳しくは、下記の表で確認してください。○がついている科目が免除となる科目です。
なお、初任者研修の隣に記載されている「訪問介護員研修」は、旧ホームヘルパーの正式名称です。
届出の必要がない研修にかかる終了認定科目について
■難易度
ただし、何らかの方法で理解度を確認するための修了評価は行われます。
実施機関によっては筆記試験を設けているところもあります。演習では、実技試験が課される場合もあります。
また、通信コースでは科目ごとにレポート課題を提出して、講師による添削指導、評価を受ける必要があります。
試験や課題の合格基準はスクールなどの実施機関によって異なりますが、いずれも難易度は高くなく、講義をしっかり聞いて理解していれば合格点を取ることができるでしょう。
不合格になった場合は、合格するまで追試を受けることができます。
実務者研修全体の合格率は不明ですが、きちんと講義に出席して必要な課題を提出していれば、ほぼ100%の確率で修了できるといわれています。
ただし、実務者研修を修了するには、原則として全ての講座に出席する必要があるため、途中で講座を受講できなくなった場合は修了できません。
実務者研修は受講期間が長いので、最後まで欠かさずに出席できるように綿密に計画を立てたうえで、自分のライフスタイルに合ったコースに申し込むことが大切です。
スクールによっては、講義日程のなかでどうしても出席できない日があるときに、ほかの日程への振替ができる場合もあります。
■費用
無資格の人が受講する場合、相場はテキスト代込みで10~20万円前後です。
初任者研修などの資格を持っている場合は、免除される科目があるため、受講料も安くなります。
目安の金額は、初任者研修・旧ホームヘルパー2級を修了している場合で7~14万円程度、旧ホームヘルパー1級を修了している場合、5~10万円程度、介護職員基礎研修を修了している場合、3~6万円程度です。
実務者研修は初任者研修と比べると科目・時間数が多い分、費用もかかります。
対象となる支援制度や補助金があれば、ぜひ活用しましょう。以下に、主な制度を紹介します。
(1)勤務先の資格支援制度
受講料の一部または全額を事業所が負担してくれるケースが一般的ですが、受講料が貸与されて、一定の期間勤務することを条件に返還が免除されるケースや、勤務先が実施している実務者研修を無料で受けられるケースもあります。
(2)求職者支援制度の職業訓練
職業訓練は、再就職や転職を希望する人を支援するための求職者支援制度の一環です。
ただし、職業訓練を受けるには、要件を満たしたうえで、ハローワークで選考を受ける必要があります。
また、通常、職業訓練にはスクールのように土日のコースはなく、平日の日中に講義が行われます。受給要件などの詳細は、厚生労働省のサイトでご確認ください。
(3)教育訓練給付制度
教育訓練給付制度は働く人のスキルアップやキャリア形成を支援するための国の制度で、厚生労働大臣の指定を受けた講座を受けると、費用の一部が雇用保険から支給されます。
詳しい受給要件については、厚生労働省のサイトを参考にしてください。
このサイトから、教育訓練給付制度の指定を受けているスクール・講座を検索することもできます。
(4)介護福祉士実務者研修受講資金貸付制度
全国の各都道府県にある社会福祉協議会が実施する制度で、貸付額は最大で20万円です。
実務者研修を修了した後、介護福祉士の国家資格を取得し、その都道府県内にある介護施設で2年間勤務すると、貸付金の返済が免除されます。
都道府県によって要件が異なる場合があるため、詳細は就職や転職をする予定がある都道府県の社会福祉協議会のWebサイトや窓口でご確認ください。
以上のほか、都道府県や市町村といった地方自治体が独自の支援制度を設けている場合もあります。
介護福祉士実務者研修は働きながら修了できる?
ただ、実務者研修を修了するには、無資格の場合は最短で6ヶ月、初任者研修を修了している場合でも最短で4ヶ月の期間がかかります。働きながら受講する場合、最短の期間では修了できないケースも少なくありません。
途中で仕事が忙しくなったり体調を崩したりすれば、予定より受講期間が長くなることも考えられます。
不測の事態が起こることも想定して、無理のない計画を立てることが重要です。
なお、実務研修は、スクールが設定した受講期限内に修了する必要があります。受講期限はスクールによって異なりますが、2~3年程度が一般的です。
また、多くのスクールが、受講生が急に休んでも研修を修了できるように、振替制度や受講延長制度を用意しています。ただし、1ヶ月に可能な振替受講の回数、振替や延長にかかる料金(無料の場合もあり)は、スクールによって異なります。
スクールや受講コースを選ぶ際には、受講期限とともに、振替制度や受講延長制度の内容を確認しましょう。
多くの介護施設・事業所では、職員向けにさまざまな資格支援制度を用意しているため、介護職として働きながら実務者研修の修了を目指す人は、他業界で働く人よりも環境に恵まれているといえます。
経済的な面での支援があるのはもちろん、同じ職場の介護職の先輩にスクールの選び方や勉強方法について相談できるのも利点の一つです。
これから受けるなら初任者研修?実務者研修?
実務者研修は初任者研修を修了していなくても受けられるため、無資格で実務者研修にチャレンジすることも可能です。
ただ、カリキュラムには応用的な内容も含まれるため、基礎的な知識・スキルがないと、講義についていくのが難しいかもしれません。
実務経験が全くない未経験者や、介護職として働き始めてから1~2年程度の人は、初任者研修から受講するのがよいでしょう。
初任者研修を修了しておけば、実務者研修の科目の3割程度が免除されるため、将来、実務者研修を受ける際のハードルが低くなり、スムーズに修了できるはずです。
一方、すでに介護職として3年以上働いていて、実務を通して基礎的なスキルを習得している人は、初任者研修を受けずに実務者研修にチャレンジするのもよいでしょう。
その分、受講期間は長くなりますが、基礎的な内容を確認しながら、専門的な知識・スキルを効率的に身につけることができます。
特に介護福祉士を目指している場合は、実務者経験を修了すれば介護福祉士の受験資格を満たせるため、実務者研修から受けるのが近道です。
まとめ:初任者研修を修了している人は、実務者研修にもチャレンジを
しかし実務者研修を修了すると、スキルが向上し、より自信を持って仕事ができるようになり、チームリーダーに昇格しやすくなります。
また、介護福祉士の国家試験の受験資格も得られるため、次の目標に一歩近づけます。
実務者研修を修了した後、介護福祉士の資格も取得すれば、管理者やケアマネジャーになる道も見えてきます。すでに初任者研修を修了した人は、ぜひ実務者研修の受講も検討しましょう。
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