本日のお悩み
介護美容の目的や効果、取り入れる場合の具体的な実施内容などについて教えてください。
はじめに:介護美容とは美容を通じて心身のケアを行うこと
■回答者/専門家
社会福祉士、介護福祉士、認定排泄ケア専門員、排泄機能指導士 介護現場の職員の後、祖父の在宅介護での後悔と、自身の介護うつ経験から、そのきっかけになった排泄の支援を追求すべくおむつメーカーへ転職。 1000人以上の方のおむつ交換に触れ、介護する側もされる側も双方が「シッカリ出して、スッキリ生きる」ことが、より良い人生に繋がる。気持ち良く「出す」ことをサポートすることで良い循環が生まれることを実感する。
年齢を重ね、手が使いにくい、目が見えにくいといった身体の不自由が起こると「綺麗でいる自分」を諦めてしまう方が多くいらっしゃいます。ですが、介護美容は単なる見た目の向上だけでなく、(Quality of Life=生活の質)を維持向上できる効果があることが、過去に行われた研究によって明らかになっています。※
この記事では、そんな介護美容の目的と効果、取り入れる場合の具体的な実施内容についてお伝えいたします。
出典:公益法人コーセーコスメトロジー研究財団化粧療法による被介護者と介護ボランティアの精神的活性化
介護美容の目的
1.心の健康の向上
2.生活の質の向上
3.リハビリテーションの一環
■1.心の健康の向上
綺麗になることでお洒落がしたくなる、といった心が元気になる変化が起こることは、私たちも共感することがありますよね。
■2.生活の質の向上
介護現場での美容ケアの導入は、高齢者の生活の質を向上させる報告があります。※
出典:公益法人コーセーコスメトロジー研究財団化粧療法による被介護者と介護ボランティアの精神的活性化
■3.リハビリテーションの一環
メイクやスキンケアをご自身で行う場合、そのプロセスには、手先の細かな動きや、身体の運動が含まれます。資生堂は、高齢者が化粧をすると筋力維持に必要な負荷が上肢筋肉にかかることを明らかにしています。※
メイクやスキンケアといった細かな動きを継続して行うことは、身体機能の維持や向上につながると考えられるでしょう。
出典:資生堂 「資生堂、継続的な化粧行為が高齢者の日常生活動作を向上させることを実証」
介護美容の効果
1.心理的なリラックス効果
2.新陳代謝が高まる身体的効果
3.社会的な孤立を防ぐ効果
■1.心理的なリラックス効果
また、手足や背中を優しく撫でられると、痛みや不安が和らぐとも言われますよね。これは肌と肌の触れ合いによるコミュニケーションから、心地よさや不安の緩和に繋がるホルモン(オキシトシン)の分泌が促されるからです。
また、実際の調査でも、美容ケアが高齢者の心理的健康にポジティブな影響を与えることがわかっています。※
出典:公益法人コーセーコスメトロジー研究財団化粧療法による被介護者と介護ボランティアの精神的活性化
■2.新陳代謝が高まる身体的効果
また、スキンケアを定期的(週2回以上)に行っている要介護高齢者は、行っていない人よりも、注意機能を含む認知機能が高く、 日常生活動作や社会生活が良好であり、さらに日中に座ったり寝て過ごす時間が短く認知症状についての自覚症状が少ないことが判っています。※
出典:一般社団法人 日本介護美容セラピスト協会 「定期的な化粧行動の有無による身体・認知・精神機能の比較、要介護高齢女性における検討」(平成27年3月7日 日本健康支援学会にて発表 大杉・村田・谷 他)
■3.社会的な孤立を防ぐ効果
身だしなみを整えることにより、コミュニケーションを積極的に行えるようになると、他者と接することが楽しくなりますよね。それは自信につながり好循環を生み出します。
実際の調査でも、美容ケアが社会的つながりの維持に重要な役割を果たすことが記されています。※
出典:公益法人コーセーコスメトロジー研究財団化粧療法による被介護者と介護ボランティアの精神的活性化
介護美容の具体的な実施内容
■1.スキンケア
高齢者の肌は乾燥しやすいため、保湿クリームやローションを使用して肌を保護します。また、優しくマッサージすることで血行を促進し、リラックス効果も得られます。※
入浴後などはもちろん、メイク前など定期的にスキンケアをするタイミングを決め、使いやすい環境設定ができるよう、持ち運び用のセットにまとめておく、など工夫したいところです。
出典:神戸大学「毎日のスキンケア動作習慣が心拍自律神経活動や皮膚状態に影響する可能性を確認」
■2.ヘアカット・ヘアセットなどのヘアケア
また、定期的なヘアカットやシャンプーは、清潔感を保つためにも重要です。高齢者や障害を持つ方々の場合、自分でヘアケアを行うのが難しいことがあるため、専門の美容師がサポートします。
その場合、美容師、理容師の知識・技術に加え、介護福祉に関する正しい知識を身につけている「福祉美容師」という方に依頼できると安心ですね。
出典:ホーユー株式会社 ヘアカラーメーカーのホーユーが「髪と心の相関」の解明調査に着手
■3.ネイルケア
ネイルのケアには、爪が伸びすぎたり、汚れが溜まったりするのを防ぐ目的での爪切りや甘皮処理、マニキュアなどで爪を彩るケアが含まれます。使用されるものは、剥がす際に大きな負担がかかるジェルネイルではなく、短時間で行えるシールやマニキュアタイプのネイルが多いです。
何よりも自分の視界に入りやすく、ふとした時にも変化を感じられるネイルの彩りは、最近では彩爪介入(療法)という位置づけがされているようです。
爪に何かを施すことに好みの個人差はあるものの、関節の拘縮や麻痺、認知症がある方など、対象となる方が広いのも特徴です。
■4.メイクアップ
また、メイクを定期的に行なっている要介護高齢者は行っていない人よりも、日常生活の自立度が高く、日中に座ったり寝て過ごす時間が短く、認知症状について自覚症状が少なく、また、物をつまむ力も強いことが分かっていますので、可能であれば、ご自身でメイクができる様な環境設定を考えることが大切です。※2
※1 公益法人コーセーコスメトロジー研究財団化粧療法による被介護者と介護ボランティアの精神的活性化
※2 一般社団法人 日本介護美容セラピスト協会 「定期的な化粧行動の有無による身体・認知・精神機能の比較、要介護高齢女性における検討」(平成27年3月7日 日本健康支援学会にて発表 大杉・村田・谷 他)
■5.アロマセラピー
香りによって気分が安定し、神経系の働きを鎮め、心と身体の働きをリラックスさせストレスが軽減される効果があります。
ほかにも、消化促進作用やホルモン調節作用などがありますが、高血圧の方やてんかんのある方への使用は注意が必要であったり、光毒性や皮膚刺激にも留意が必要なため、導入の際はきちんとした取扱いができる有資格者に依頼するのがおすすめです。
最後に:日々のケアも重要な介護美容です!
その対象は女性だけではなく、男性にとってはハンドマッサージや耳毛、鼻毛、眉毛の手入れなどがあり、さらに、がん患者向けの医療ウィッグなども含まれます。
これらのケアを取り入れることで、心の健康が向上し、身体的な健康の維持、社会的な孤立を防ぐといったプラスの効果があります。
外部から専門の美容師、福祉ネイリストなどの専門職が訪問する「ハレ」の日としてイベント的に実施することもありますが、「朝起きたらまずは化粧水を塗って口紅をする」などから、日々のケアに取り入れることも介護美容だと思います。
できる部分は少しずつ取り入れ習慣とすることで、心身への好影響が期待できるでしょう。 いくつになっても「綺麗でいたい」という人の想いを汲み、その方の生活を彩るために、効果的に取り入れていただければと思います。
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社会福祉士、介護福祉士、認定排泄ケア専門員、排泄機能指導士