本日のお悩み
介護士をしています。職場の苦手な人のことを、関係ないところまで見下してしまう自分が嫌です。
その人は無資格ですが気がきいて助けてもらうこともあるのでいい人なことは分かっています。
でも癪に障る部分とか許せないところがあって優しくできません。
「承認欲求」にご用心
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
ご質問ありがとうございます。文面から本当に苦しんでいらっしゃることが想像できます。
おそらく質問者さんは、苦手な方のいい面も見ようと努力されてはいますが、どうしてもダメなんですね。私も同じ経験があるのでわかります。
こういった苦手な方との人間関係の苦しみは、100%避けることは難しいです。人は十人十色、合う合わないが ない方が不自然です。そんな中、歩みよる努力をされている質問者さんは素晴らしいです。
さて、そうは言ってもなんとかこの苦しみから抜け出したい。
私は、質問者さんの「承認欲求(他者から認められたい、自分を価値ある存在と認めたい欲求)」に鍵があると考えます。
突然ですが、質問者さんは、ご自分の「承認欲求」は強い方だと思いますか?
マズローの5段階欲求説では、下層から生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現の欲求と欲求が満たされるごとに欲求の段階が上位に上がっていきますが、質問者さんは、4層めの承認欲求に苦しんでいるのではないでしょうか?
■介護現場でよくみられる、人を見下してしまう原因
経験則ですが、介護現場では、狭い空間に少人数で勤務している為、他者と自分を比べ、自分が優位に立っていることで自己肯定感を高めようとする傾向がみられやすいと感じます。つまり、苦手な方を見下してしまうのは、見下すことにより質問者さんが、無意識に自己肯定感を高めようとしているのではないでしょうか。
また、質問者さんは、上司に自分を認めてもらえていると満足していますか?きっとあまり実感がないのではないでしょうか?この傾向は、ますます自分を他者と比べるように追い込んでいきます。追い込まれると頭では「気が利いて助けてくれる良い一面もある」と理解しながら、悪いところ(苦手なところ)にスポットが当たるようになり態度に出てしまう(優しくできない)。そして、質問者さんは、態度に出してしまう自分に罪悪感を感じて嫌になり、自己肯定感がさらに下がる。
これは、完全なる負のスパイラルで、質問者さんのメンタルが心配です。
■自己肯定感を高めるには?
そこで対策です。承認欲求を満たし、自己肯定感を高める2つの方法をお伝えします。
① (相談できる上司がいる場合)自分の状況を上司に相談する。
状況を鑑みると質問者さんは、既に自分が変わる努力はしているので、環境を変えることをお勧めします。ユニットを移動させてもらうなど一定の距離を保てれば、状況は改善するかもしれません。又、上司に自分の思いを承認してもらうことで気持ちが楽になるでしょう。
②(相談できる上司がいない場合)気の合う同僚、若しくは友達、家族に思いを聞いてもらう。
自分の悩みを気の合う同僚、若しくは友達、家族に聞いてもらう(認めてもらう)ことで気持ちが楽になるかもしれません。又、気分転換に休むことも効果的です。もしかしたら、職場を変えることも良いのかもしれませんね。
■頑張りすぎず、今できることを!
相手は自分の鏡です。自分が、苦手だと感じることは、相手も苦手だと感じていると考えて間違い無いでしょう。また、自分が「嫌な態度だな」と感じる時は、質問者さんが同様の態度をとっているかもしれませんよ。苦手な相手のことばかり考えてしまうのは、苦手な相手に脳を支配されている、質問者さんの大事な時間を奪われていると考えてください。
質問者さんは、もう精一杯努力しています。
頑張りすぎず、環境を変えることは決して「逃げ」ではありません。
自分が苦手だなと思いを肯定して、今できることを実行してみてください。
きっと数年後そんな悩みもあったな・・・と思い返せる日がきます。
人を見下してしまうとき、自分でできる対処法は?
回答者
ワ☆ノベーション代表 グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA) MBA(経営学修士)、公認心理師、社会保険労務士有資格者、社会福祉士。 総合心理教育研究所学術客員研究員。
人間ですから、誰もが人を見下してしまった経験があるのではないでしょうか。
とはいえ、見下してしまう傾向がある人は劣等感や嫉妬を抱いていることが少なくないです。優越感や承認欲求を満たすために自分より下の人を探してしまいます。
マウンティングという言葉がありますよね。これは、自分が人よりも優位、上の立場であると示すことによって自尊心を満たし、ストレスを発散する行為です。
見下すことによって自尊心を満たすことは、あまり健全とはいえません。人間関係が不安定になりますし、仕事やプライベートにも支障がでます。
見下してしまう傾向がある人は精神的に未成熟かもしれません。見下してしまうことを自覚していて、それを治したいと考えていることは素晴らしいことです。これから人間的、精神的な成長ができます。スモールステップで取り組んでいきましょう。
■STEP1:まずは「セルフモニタリング」をやってみましょう
①見下してしまったことにリアルタイムで気づく
まず、取り組んでいただきたいのがセルフモニタリングのトレーニングで、これは自分が人を見下してしまった瞬間にリアルタイムで気づくということです。
自分はこの人を見下しているんだなぁ~と、もう一人の自分が自分を眺める感覚です。見下していることに気づかなければ対処できませんので、まずは、このトレーニングをしてみてください。このセルフモニタリングだけでもかなり効果があります。
②見下してしまったときの状況を具体的に書き出してみる
次に、見下してしまった瞬間のことを具体的に紙に書き出し、整理しましょう。
【例】
いつ:○○年○月○日○○時○○分
どこで:職場の会議室
誰に:同僚の○○さん
見下したきっかけ:会議で××の発言をした時
③その時の自分の体験も書き出す
最後に、その時の自分の体験を書き出します。
【例】
認知:またズレた発言をしている。意味が分からないな・・・。
感情:優越感、罪悪感、自己嫌悪
行動:嘲笑してしまった
身体反応:少し重い感じ
※相手を見下した態度や行動は、自分も相手も傷つきます。建設的な行動をしていきましょう。
セルフモニタリングの結果をもとに、内省しましょう
このように書き出して整理しておくことでデーターベースができてきます。同じような状況になった時に対処しやすくなります。
紙に書いたことを見返し、その場面をリアルに思い出して、どうして見下してしまったのか内省してみましょう。心に問いかけてみましょう。
見下された相手はどんな気持ちなのか、自分が見下されたらどんな気持ちなのかイメージしてみてください。
■STEP2:人を見下してしまった自分に気づいた後の行動は?
感情や身体反応は変化させることが難しいです。
たとえば、ものすごく緊張しているときに感情をコントロールしてリラックスすることはなかなかできませんよね。
身体反応についても、血圧や心臓はコントロールできないですよね。
まずは深呼吸。その後、見下してしまった人に対して誠意をもって行動する
人を見下してしまったことに気づいたら、まずは難しく考えずにその場でゆっくり呼吸してみましょう。
その後、認知と行動にアプローチしていきます。
見下してしまったことに対して自分にダメ出しすると悪循環にはまります。
頭の中で見下してしまったとしても、その人に対して誠意をもって行動してみましょう。行動によって認知や感情が変化します。見下してしまって罪悪感がでたとしても、誠意ある行動をすることによって罪悪感が減少します。
【例】見下してしまったことに気がついた後、取る行動
●認知的アプローチ
相手の良い点を考える/楽しいことを考える/見下すことを改善するトレーニングのチャンスととらえる/自分の身体反応に意識を向ける/やむなし、人間だものと受け入れる
●行動的アプローチ
ゆっくり深呼吸する/笑顔になってみる/背筋を伸ばす/その場を離れる/手をグーパー、グーパーと握ったり、開いたりする
豆知識:「認知」とは?
認知とは、頭の中で体験していることです。たとえば、言葉で考えることだけでなく、イメージ、記憶(知識)も認知に含まれます。
頭に浮かんでくる考えやイメージのことを「自動思考」といいます。認知を深さで分けた場合、浅い部分が自動思考です。たとえば、「この人は私より劣っているなぁ~」と、見下しているのは自動思考で考えの浅い部分です。
「この人は私より劣っているなぁ~」という自動思考の背景にある深い部分を、価値観や信念、ルールなどをひっくるめてスキーマ(中核信念)と呼びます。このスキーマは子どもの頃から培われてきたもの、自分のアイデンティティーみたいなものです。この部分を変えようとすると、自分を大改造するようなものなので、ものすごくエネルギーがかかりますし、心が不安定になる場合もあります。なので、まず認知や行動で対処していきます。
■STEP3:自己受容トレーニング
あるがままの自分を受け入れます。自分を良い悪いで評価せず、ただ、そのまま受け止めていくことです。「評価しない」「ほめもしない」「ダメ出しもしない」のが大きな特徴です。
見下してしまうという、あるがままの自分を受けいれていくことによって、少しずつ相手のこともあるがまま受け入れることができるようになってきます。
人間として成熟してくると、自己受容できるようになってきます。自己受容できるようになってくると、他者受容もできるようになってきます。他者と自分を比較しなくなり、人を見下すことが減ってきます。
そして自分で自分を満たすことができるようなってきます。
以上のような3つのステップを試行錯誤しながら取り組んでいくことで、見下してしまったた時の対処スキルがアップしますので取り組んでみてください。
自分はあの人に見下されているな…と感じた時は?
■心の距離をとりましょう
見下してくる人とはできるだけ距離をとりましょう。あまり関わらない方がいいかと思います。とはいえ、仕事だとそうはいかないこともあるので悩ましいですよね。
・できるだけ関わらないようにし、心の距離をとりましょう
・見下されたときはできるだけ、毅然とした態度をとって、言うべきことは伝えましょう
・この人は生きづらさを抱えているんだなぁ~、劣等感や嫉妬で苦しんでいるんだなぁ~、他者からの承認を求めているんだなぁ~などなど、相手に対して慈愛の気持ちを持ってみましょう。
余裕があれば、○○さんが健やかで幸せでありますように。苦しみから解放されますようにと心の中で呟いてみましょう。
■見下されているストレスに対処するには
見下されてストレスになったと時はこのようなコーピング(ストレス対処)をしてみましょう。
認知的コーピング:好きなものやリラックスすることをイメージする/考え方を変えてみる/自分をなぐさめる
行動的コーピング:趣味をする/運動する/自分を癒やす/おいしいものを食べる/友達と話す
もし、職場のチームに人を見下してしまうメンバーがいたら
チームに見下す発言をするメンバーがいたらストレスになりますし、人間関係に対立が起こりやすいですよね。
誰かに指摘をすることが苦手な方も多いと思いますが、そのまま放置するとチームや人間関係に亀裂が入りかねません。不適切な発言があったらその場でフィードバックしましょう。できなかった時はできるだけ、早いタイミングでフィードバックをしていきましょう。
■メンバーにフィードバック(指摘)するときの8つのポイント
①フィードバックをする前に、その目的や指摘内容を整理しておきましょう
②個室など人目につかない、他者に聞かれないような場所で行いましょう
③部下をリスペクトしまししょう
「自分が正しい、相手が悪い」というスタンスで挑むと、適切なフィードバックをしても相手が反発して話を受け入れにくくなります。
④面談の初めは、最近のちょっとした幸せについてなどハッピーな話題で緊張を解きほぐしましょう
⑤まずは事実(具体的なエピソード)を伝えましょう
事実の確認でメンバーと認識をそろえてズレをなくします。
(例)先日の会議でAさんの発言に対して、薄ら笑いしながら××と発言しましたよね。
⑥次に主観を伝えましょう
(例)私には見下しているように見えましたがいかがですか?あの時の言動についてどう思いますか?
※事実の共有後、もしくは主観を伝えた後に、相手に考えてもらうコーチング的な質問も効果的です。
「あの時の表現についてなんだけど、どう思いますか?」「次回からどのような言動ができるといいと思いますか?」など、その時の状況に応じて使い分けてみてください。
⑦最後に提案しましょう
(例)次回からは××の言動の代わりに、○○の言動でほしいです。
⑧事後のフォローアップを忘れずに
(例)あの言動は良かったです。その調子で継続していきましょう。
フィードバックをしても、一度で改善しないことも少なくありません。何度か繰り返しするものだと考えておきましょう。
応援しております!!
茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)