第32回 介護福祉士国家試験 過去問と解説(介護の基本)

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第32回 介護福祉士国家試験 過去問と解説(介護の基本)

問題1

Fさん(72歳、女性、要介護2)は、中等度の認知症(dementia)があり、自宅で夫と生活している。ある日、訪問介護員(ホームヘルパー)が訪問すると、夫が散乱したコーヒー豆を片づけていた。Fさんは、「わからなくなっちゃった」と言っていた。訪問介護員(ホームヘルパー)が夫に事情を聞くと、「今も日課でコーヒーを豆から挽(ひ)いて入れてくれるんだが、最近は失敗することが多くなって、失敗すると自信を失ってしまうしね。でも、毎朝、『コーヒーを入れなくちゃ』と言うんだ」と寂しそうに話した。
訪問介護員(ホームヘルパー)の夫への助言として、最も適切なものを1つ選びなさい。

1.「そばにいて、Fさんと一緒にコーヒーを入れてはどうですか」
2.「Fさんと一緒に、喫茶店にコーヒーを飲みに行ってはどうですか」
3.「おいしいコーヒーを買ってきて二人で飲んではどうですか」
4.「私がFさんからコーヒーの入れ方を教えてもらいましょうか」
5.「新しいコーヒーメーカーを買ってはどうですか」

解答

1.「そばにいて、Fさんと一緒にコーヒーを入れてはどうですか」

解説

1.(○)日課には、個人的な好みやこだわり、家族内での役割意識など、様々な思いが込められています。夫と一緒にコーヒーを入れることで、Fさんは安心・安全に日課を達成することができると考えられるため、2人の生活習慣や価値観を適切にアセスメントした末の助言だといえます。
2.(×)2人でコーヒーを飲むことはできますが、Fさんの意欲をくみ取ることはできません。
3.(×)Fさんの日課や意欲に対応していないため、適切な助言だとはいえません。
4.(×)明らかに失敗したばかりのことを他人に教えるのは、誰にとってもあまり気の進まない行為です。また、教える段階で失敗してしまえば、さらなる混乱や自信喪失を招きかねません。
5.(×)日課であった豆を挽く行為でさえ混乱をきたしているため、新しいコーヒーメーカーを使いこなすことは難しいと考えられます。

問題2

Gさん(80歳、女性、要介護3)は、脳卒中(stroke)の後遺症により左片麻痺があり、からだを思うようにコントロールができず、ふらつきが見られる。以前は、2週間に一度は美容院で長い髪をセットしてもらい、俳句教室に行くのを楽しみにしていた。病気になってからは落ち込むことが増え、介護が必要になったため、介護老人福祉施設に入所した。
ノーマライゼーション(normalization)の考え方を踏まえた、Gさんへの生活支援として、最も適切なものを1つ選びなさい。

1.洗髪しやすいように、長い髪のカットを勧める。
2.共同生活のため、夕食は施設の時間に合わせてもらう。
3.落ち込んでいるため、居室での生活を中心に過ごしてもらう。
4.おしゃれをして、施設の俳句クラブに参加するように勧める。
5.転倒予防のため、車いすを使用してもらう。

解答

4.おしゃれをして、施設の俳句クラブに参加するように勧める。

解説

ノーマライゼーションとは、障害の有無にかかわらず、万人にとって等しく平穏な生活や権利が保障された社会を実現させる考え方であり、社会福祉の重要な概念の一つです。

1.(×)本人の意思よりも洗髪のしやすさを優先することは、ノーマライゼーションの考え方に反していません。
2.(×)可能な限りGさんの生活習慣に合わせられるよう検討することが適切です。
3.(×)落ち込んでいるからといって過ごし方を決め付けるのではなく、Gさんの気持ちに寄り添った支援が望まれます。
4.(○)介護が必要になっても、以前と同じようにその人らしく暮らせるような支援が大切です。
5.(×)自立歩行が可能であるならば、杖などの補助具の使用や、安全に配慮した生活空間の整備などを検討することが適切です。

問題3

Hさん(80歳、女性、要介護1)は、アルツハイマー型認知症(dementia of the Alzheimerʼs type)である。20年前に夫が亡くなった後は、ずっと一人暮らしをしている。これまでの生活を続けていきたいので、訪問介護(ホームヘルプサービス)を利用することにした。
訪問介護員(ホームヘルパー)のHさんへの対応として、最も適切なものを1つ選びなさい。

1.Hさんの意向を確認して、今までどおり畳で布団の使用を継続した。
2.入浴後、手ぬぐいで体を拭いていたが、バスタオルに変更した。
3.訪問介護員(ホームヘルパー)の判断で、食事の前にエプロンをつけた。
4.整理整頓のために、壁に立てかけてあった掃除機を押し入れに片づけた。
5.Hさんの気持ちを切り替えるために、家具の配置を換えた。

解答

1.Hさんの意向を確認して、今までどおり畳で布団の使用を継続した。

解説

1.(○)「これまでの生活を続けていきたい」というHさんの希望を尊重し、できるだけ今まで通りの環境を維持することが大切です。
2.(×)本人が特に希望していないのであれば、バスタオルに変更する必要はありません。
3.(×)必要に応じてエプロンを使用する場合もありますが、訪問介護員(ホームヘルパー)の判断のみでなく、Hさんと話し合って決めることが大切です。
4.(×)掃除機の位置を訪問介護員の判断で変えてしまうと、認知症であるHさんの混乱を招く可能性があります。
5.(×)Hさんの気持ちを切り替えるよりも、環境を変えずに生活を継続してもらうことが優先されます。

問題4

訪問介護事業所のサービス提供責任者の役割に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。

1.利用者の生活課題に沿って、居宅サービス計画書を作成する。
2.具体的な援助目標及び援助内容を記載した訪問介護計画書を作成する。
3.利用者の要望に応じて、他の事業所との利用調整を行う。
4.判断能力が十分でない人に対して、日常的な金銭管理を行う。
5.居宅サービス事業者を招集して、サービス担当者会議を開催する。

解答

2.具体的な援助目標及び援助内容を記載した訪問介護計画書を作成する。

解説

1.(×)居宅サービス計画書(ケアプラン)を作成するのは、居宅介護支援事業者や介護支援専門員(ケアマネジャー)です。訪問介護事業所のサービス提供責任者は、ケアプランに沿って訪問介護計画書を作成します。
2.(○)具体的な援助目標や援助内容を記載した訪問介護計画書を作成し、適切なサービス提供のために訪問介護員(ホームヘルパー)への管理・指導・連絡調整などを行います。
3.(×)利用者の要望に応じて他の事業所との利用調整を行うのは、介護支援専門員です。
4.(×)判断能力が十分でない人に対する日常的な金銭管理は、都道府県・指定都市社会福祉協議会が実施主体となる日常生活自立支援事業で対応します。
5.(×)居宅サービス事業者を招集してサービス担当者会議を開催するのは、介護支援専門員です。

問題5

高齢者介護施設で、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の保菌者が確認されたときの対応に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。

1.入所者全員の保菌の有無を調べる。
2.接触感染予防策を実施する。
3.保菌者のレクリエーションへの参加を制限する。
4.保菌者は最初に入浴する。
5.通常用いられる消毒薬は無効である。

解答

2.接触感染予防策を実施する。

解説

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は、体表面(皮膚)や消化管内に常在するグラム陽性球菌であり、多くの人が保菌しています。通常は無害ですが、免疫力が低下している場合や皮膚に創部がある場合などは容易に感染し、重症感染症の原因となります。

1.(×)通常は無害な常在菌であるため、その保菌の有無を確認することに意味はありません。
2.(○)主な感染経路は接触感染であるため、スタンダードプリコーションに加えて接触感染予防策を実施します。
3.(×)保菌しているだけであれば無害であるため、行動制限をする必要はありません。
4.(×)保菌しているだけであれば無害であるため、入浴の順序に配慮する必要はありません。
5.(×)通常使用される消毒用アルコールは、MRSAに対して有効です。

問題6

認知症対応型共同生活介護(グループホーム)での介護に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。

1.テレビのニュースを見て、新しい出来事を覚えてもらう。
2.利用者それぞれの要求には応えられないので、同じ日課で過ごしてもらう。
3.利用者の、現在よりも過去の身体的・精神的状態の把握が優先される。
4.利用者の、なじみのある人や店との関係は継続していく。
5.環境に慣れるまでは、車いすでの移動を勧める。

解答

4.利用者の、なじみのある人や店との関係は継続していく。

解説

1.(×)認知症では、新しい出来事を覚えることが困難になります。
2.(×)利用者のこれまでの生活に配慮し、できるだけ個別的に対応する姿勢が求められます。
3.(×)認知症は進行性疾患であるため、過去よりも現在の身体的・精神的状態を把握してケアの方針を決定する必要があります。
4.(○)なじみのある人や店との関係は継続してもらいつつ、住み慣れた地域でその人らしい生活を送れるよう支援します。
5.(×)自立歩行が可能である場合は日常生活動作(ADL)の低下につながる対応であり、画一的に車いすでの移動を勧めることは不適切です。

問題7

介護福祉職の倫理に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。

1.介護の技術が伴わなくても、利用者の要望を最優先に実施した。
2.利用者が求めた医行為は、実施が可能である。
3.個人情報の取扱いについて、利用者に説明して同意を得た。
4.暴力をふるう利用者を自室から出られないようにした。
5.業務が忙しかったので、施設の廊下で職員同士の打合せを行った。

解答

3.個人情報の取扱いについて、利用者に説明して同意を得た。

解説

1.(×)技術が伴わない場合は、たとえ利用者の要望があったとしても、そのサービスを提供することは不適切です。
2.(×)介護福祉士が実施できる医行為は法令等により限定されているため、利用者に求められても実施可能とは限りません。
3.(○)個人情報保護法などの規定を踏まえ、十分に説明した上で利用者の同意を得ることが必要です。
4.(×)自らの意思で出ることができない居室に隔離することは、身体拘束行為に該当します。
5.(×)職員同士の打合せは、利用者に伝わることが不適切な内容が含まれる可能性があるため、廊下などのオープンスペースでは避けるべきです。
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