本日のお悩み
観光業で働いていたのですが、仕事がなくなってしまって介護の仕事に転職しようかと思っています。
でも、来年から介護の仕事でライフという難しいシステムが義務になるという記事を見て不安になってしまいました。
パソコンや電気製品を使うことがとても苦手なのですが、そのような人でも使えますか?
これはどういうシステムですか?
相談者:みき さん
LIFE(科学的介護情報システム)は介護新時代の扉を開ける鍵となる?
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもみじ館施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
ご質問ありがとうございます。
まずは、観光業でのお仕事がなくなってしまったとのこと。
コロナの影響で本当にお辛い思いをされたと推測します。そういった中で介護の仕事にご興味いただいたこと、とてもうれしく思います。
さて、ご質問の件、ライフについてですね。
転職前からライフの情報を察知されていること素晴らしいです。
そもそもライフとは何なんでしょうか?解説します。
■「ライフ」という言葉はどこから?
ライフとは「LIFE(科学的介護情報システム/Long-term care Information system For Evidence)」
のことを言います。なんとなくライフ=生活のイメージですが、実は、科学的介護情報システムの英語頭文字をとった造語だったんですね。
しかし、実際にご利用者の生活に関わる情報ですのでとても良くできていると私は思いました。
■LIFE(科学的介護情報システム)をわかりやすく解説します
ではこのLIFE(科学的介護情報システム)をもう少し紐解きましょう。
厚生労働省は、「令和3年度介護報酬改定において、科学的に効果が裏付けられた自立支援・重度化防止に資する質の高いサービス提供の推進を目的とし、LIFE を用いたPDCAサイクルの推進及びサービスの質の向上を図る取組みを推進する」とLIFEの目的を明記しています。
でもこの文章、旅行業界にいらっしゃった質問者さんには解読がむずかしいですよね。
ちょっと分解してみます。
「令和3年度の介護報酬改正」とは
まず冒頭の「令和3年度の介護報酬改正において」からいきますね。
日本の高齢者を支える制度として介護保険法があります。これは、2000年に施行されました。
実は介護保険法は3年ごとに社会情勢に合わせ改正されることとなっています。令和3年度の改正は、介護保険法施行から数えて21年目、7回目の改正となるんです。
日本の高齢者を取り巻く状況
次にこの21年間で日本の高齢者(65歳以上)の状況はどう変わったかのでしょうか。
高齢者の数は2,204万人から3,617万人になりました。実に1.64倍です。
日本全人口の割合で言うと17.4%から28.7%に増加したこととなります(総務省統計局調べ)。
これに比例して、介護保険料は第1期(2000〜2003年)の全国平均2,911円/月から第7期(2018〜2020年)全国平均5,869円/月へと倍増しています。
つまり、高齢者が増えることにより介護にかかるお金が増え、国、市町村はもちろん、個人負担も増加しているんですね。
高齢者は2040年のピークまで増加していきます。このままでは日本は介護破綻です。
難局を乗り越えるには?
では、どうやってこの難局を乗り越えましょうか?
高齢者の増加を止めることはできません。
介護にかかるお金を減らすためには、シンプルに「高齢者の介護度が高くならないように抑えること」になります。
介護をたくさんされたい!という方はいらっしゃらないでしょうから、高齢者にとってもwinwinのお話です。
「科学的介護」
そこで目が付けられたのが「科学的介護」となります。
この20年間、介護は「高齢なんだから状態が悪くなるのは仕方ないよね。」という視点が強かったように思います。
もちろん、老化はやむを得ないことですが、この20年で世の中は大きく発展しました。
私はちょうど20年前介護士として就職しましたが、スマホなんてありません。
まだパソコンもなくワープロの時代でしたから笑
■日本中の介護データを集め、ケアの根拠に
LIFEはシンプルにいうと日本中の介護データを集中的に集める取り組みです。
つまり、私達が日常ケアの根拠として集めているデータを定期的に国の集中管理システム=LIFEに提供し、LIFEはその情報(ビッグデータ)を解析して私達に解析情報を提供、更には世界最先端の高齢者大国日本が進むべき道標を示してくれるということになります。
介護は数値的に評価することが難しく、どちらかというと感覚的な評価(例えば「笑顔になって良かったですね」みたいな)が主流でした。
もちろんこの感覚的な評価・情報も大事ですが、科学的にデータ分析した指標もケアの根拠として活用したらもっと介護は良くなるよね!というお話です。
■私たちにとっても初めてのこと。一緒にスタートしませんか?
まとめです。
実は、観光業界にいて転職を考えてくださっている質問者さん以上に私達が不安なんです。
今までやったことがない取り組みなんですから。
なのでスタートは一緒。逆に言うと今転職されるのはナイスタイミングかも知れません。
電子機器への不安。これも意外と使ってみればなんてことないかもしれません。
スマホだってそもそも「誰もが使いやすいように」を前提に開発されていますよね。
このLIFE私は楽しみです。これから介護業界がどう変わるのか?一緒にその変化を体感しませんか?
LIFE(科学的介護情報システム)導入から1年、正直な感想は?(2022年3月追記)
2021年4月より、本格的な運用がスタートしたLIFE。
旅行業会から介護業界に転職を考えている方より
「LIFEが始まることを知ったが、PCが苦手でも介護業界で働けるのか?」という不安の質問を
いただいたことがつい最近のような気がしてしまいます。もう1年経つんですね。
コロナにより時が止まっているかのような感覚があるのは私だけでしょうか・・・。
さて、今回は、約1年前の質問回答の追記という形です。
回答の最後「LIFEが楽しみ」と閉めていましたが、1年経ってその実感は結果どうか?
ズバリ「実感はない」
というのが実感です。
■スタート時は大変なことが多かったLIFE
運用スタート時(2から3ヶ月くらい)、集中的に登録が殺到しシステムがパンクする、事業所でのデータ登録が間に合わず職員が悲鳴を上げている、たいへんだったわりには期待したフィードバックが開示されなかった(データ登録者の概要:要介護○の人が何人、全体の何%等)、などなどネガティブな情報が多少飛び交いましたが、ま、そんなもんですよね。なんでも最初はなんだかんだ言うもんです。
私の勤務する特養の職員も最初は「大変だ!」と言っていましたが、基礎情報入力さえ終わってしまえば、大きな支障なく、不満の声も聞こえなくなりました。
つまり、慣れたんですね。
■LIFEの目的とは?を少しおさらい
ここでもう一度「LIFE」の目的はなんだったかをおさらいしますと、LIFEは科学的介護情報システムのことであり、介護事業所からケアに対するビックデータを集め、そのデータ分析から導き出されたケアに関する有益な情報(科学的根拠ある)を介護事業所にフィードバックするという仕組みでした。
■生活の中でも当たり前になっているデータ活用
さて、みなさんの生活の中でデータが意識しない間に集められて、そのデータ分析をもとに物事が進んでいるものは何を思い浮かべますか?
たとえば「POSデータ(Point Of Sales)」、これはお店のレジで商品が購入された時のデータを、購入された商品名や、時間、店舗、個数、値段、などリアルタイムで分析していき、お店の陳列や商品開発等に活かすデータです。結果的にお客様が何を求めているかを知ることができるので、知らないで行動するより、さまざまな面でコストカットが図れる仕組みです。
また、「行動データ」、これは、例えばamazonでものを買った際や、閲覧したページにより、アクションを起こしたユーザーのデータがわかる仕組みです。Amazonで購入するには、アカウント情報が必須ですので、ユーザーの年齢や性別、居住地などでより具体的な購買に関する情報がわかります。
■どのくらいのデータがあれば信用できるのか?
これらのデータ収集と分析は、生活の中に溶け込んでおり、私たちはほとんど意識ぜずにデータを提供し続け、その分析結果によるアクションの中で生活していることが想像できますよね。
しかし、これらのデータ、どのくらいあれば信憑性があるのでしょうか?
10人くらい1週間調査したくらいではその信憑性は得られませんよね。
つまり、LIFEの登録事業者数も安定しない数ヶ月の間に、具体的なフィードバックを求める方が間違っているのです。
「分析は比較なり」といいます。比較対象となるデータが十分に揃わなければ、ケアの質向上につながる有益なフィードバックを返すことはできないと言うことになります。
■データが集まるまで、提出しながら「待つ」
LIFEは運用から1年経ちデータ提出が習慣化されてきたことは素晴らしい成果ではないでしょうか?
提出されたデータから見えてきたものもあるでしょうし、更に必要だとわかったデータ、いらなかったというデータもあるのではないでしょうか?
私たちが今できるのは、LIFEを信じて、データを提出し続けること、結果を慌てても仕方がありません。
「待つ」というのも立派な行動です。実感なくて当たり前、これからどんなフィードバックに変化していくのか?1年経っても未だワクワク感が止まない伊藤でした。
追加情報(ささえるラボ編集部より)
2022年3月7日に、厚生労働省は「社会保障審議会介護給付費分科会介護報酬改定検証・研究委員会」を開催して、科学的介護システム(LIFE)の活用状況等に関する調査の結果案を公表しました。
■LIFEの活用に関連して分かったこと(抜粋)
LIFEを活用することで役に立った点
LIFEにデータ登録を行っている事業者の声としては
・LIFEを活用した取組を通じて、利用者のアセスメント方法が統一された(23.3%)
・LIFEを活用した取組を通じて、利用者のアセスメント頻度が統一された(23.9%)
・LIFEに利用者のデータを入力し管理することで、利用者の状態や課題を把握しやすくなった(34.8%)
などが挙げられており、将来的には多職種間における日々の情報共有に活用できそう(48.6%)だという意見もあります。
しかし「現時点では上記のいずれにも当てはまらない」との回答も33.1%ありました。
LIFE未登録事業所の意見
LIFE未登録事業所であっても、今後LIFEを活用したいと考えている事業所はあわせて67.5%でした。
残りの32.5%の事業所がLIFEを活用したいと思わない理由では
・データを入力する職員の負担が大きい(63.8%)
が上位の意見でした。
詳しくはこちら
3月7日 社会保障審議会介護給付費分科会介護報酬改定検証・研究委員会 資料(厚生労働省の資料に遷移します)
茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)