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認知症介護基礎研修の義務化はなぜ必要?介護職が理解すべきこと

認知症介護基礎研修の義務化はなぜ必要?介護職が理解すべきこと

2024年度から、認知症ケアの基礎的な研修である「認知症介護基礎研修」が義務化となります。介護・福祉系・医療系の資格がある方は免除されますが、無資格の方は、入職後1年以内にこの研修を受講する必要があります。認知症介護基礎研修義務化に纏わるお悩みを解決します。【執筆者:伊藤 浩一】


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本日のお悩み

認知症介護基礎研修が2024年に義務化になると決まりましたが、なぜ義務化になったのでしょうか?働き手が少ないのに義務化にすることで、より働き手が減るのではと心配です…

大変な時こそ、学ぶことの大切さ

執筆者/専門家

伊藤 浩一

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/14

茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員

ご質問ありがとうございます。
鋭いご質問ですね。おっしゃる通り、介護の働き手である介護職員の現状はますます厳しくなることが予測されます。しかし、認知症ケアにかかわる方が、最低限の知識・技術を身につけることも大きな意義があります。

認知症介護基礎研修の義務化に対して、介護の担い手が理解すべきことについて解説します。

介護職の人材不足は深刻。一方で、なぜ 認知症介護基礎研修が2024年から義務化になるのか?

ベテラン介護職が現場を離れている現状

2023年10月23日 日本経済新聞に「介護就労者、初の減少」という記事が掲載されました。
※日本経済新聞「介護就労者、初の減少」(新聞記事に遷移します。)

この見出しに「えっ?初?」と違和感を感じた方はいらっしゃったのではと思います。

そうなんです。
実は、2021年まで微増ではあるものの、介護職員の総数は増えていました。
この結果は、入職率から離職率を差し引いた「入職超過率」をもとにしています。
つまり、「入職超過率」がプラスなら働く人が増えており、マイナスなら働く人が減っているという判断になります。
記事によると、2017年度以降は毎年1%程度のプラス、2021年度は0.6%のプラスでしたが、2022年度は1.6%のマイナスに転じたとのことです。実数では、約63,000人の減少だそうです。

「ただでさえ、働き手が少ないなかで、63,000人も介護職が減っちゃったのか!」とさすがに私も衝撃を受けました。

次に、どのような介護職が離職してしまったのか?に関してですが、それは、10年以上経験のある介護職だそうです。
2021年と比べて、離職率は1.45倍とのことです。飲食・宿泊・卸売・製造業に移る人が目立ったそうで、他業界と比べて、賃金が低いことが原因と書かれていましたが、いずれにしても経験豊富なベテラン介護職が現場を離れてしまうことは本当に残念です。

そもそも「介護が必要な高齢者数=需要」と「介護職員数=供給」のバランスは、2025年には約43万人、2035年には約79万人のマイナスと大きく需要が上回る試算が出ています。今回の結果は、この試算をさらに悪化させる可能性が考えられるでしょう。

介護職の高齢者虐待事例が過去最高に その要因は教育不足

現場の働き手からすれば、
介護は無資格でも働けることが、就職のハードルを下げ、入職につながるのでは?
または、無資格で働いている介護職員にしても、現場が忙しすぎて研修なんて受ける暇がない!

というような、批判的な意見も出そうですよね。

しかし、一方で2022年12月に厚生労働省が発表した、
「介護職員などが高齢者虐待 昨年度739件 過去最多」という状況があります。

皆さんは、このような状況をご存知でしたでしょうか。

2020年から、介護保険制度がスタートして、23年が経ちました。
日本の介護は世界最先端で進歩しているはずです。一方で、その最先端を担うはずの介護職員の高齢者虐待事例は過去最高になっていたんです。
そもそも 虐待とは、「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」「ネグレクト」に定義されます。
このいずれかの虐待を介護職員が行い、その合計が全国で739件だったというのは、驚愕の事実です。

※出典:厚生労働省/令和3年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(添付資料)

虐待発生要因として、多かったものとしては、

・教育・知識・介護技術などに関する問題が56.2%
・職員のストレスや感情コントロールの問題が22.9%
・組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制などが21.5% になっています。


さらに、虐待が認められた施設や事業所のおよそ2倍にあたる146件で、過去にも虐待が確認されているとのことでした。

このデータを読んだ方はピンときたと思います。

介護職員不足も課題です。
しかし、介護のプロである介護職が、サービスの対象者であるご利用者を虐待している事実を一刻も早く改善しなければなりません。
そして、虐待の多くの要因は「教育・知識・介護技術に関する問題」なのです。

特に認知症の方との関わり方には知識が必要です。
今後の超高齢社会の進行を考えても、認知症ケアの需要は増加すると言えます。

以上のことから、認知症の基礎知識は、無資格の職員も含む、全ての介護職員が理解してるうえで、利用者の直接介護を行う状況をつくる必要があると言えます。

結果的に「2024年度から認知症介護基礎研修を義務化する。」と国が判断したのでしょう。
point!認知症介護基礎研修の補足情報

●認知症介護基礎研修とは?

    直接的に利用者へ介護を行う職員で、介護・福祉・医療系の資格を持っていない新人の介護職員向けの研修となり、認知症の方を理解し、ケアができるよう認知症の基礎知識、コミュニケーション方法、ご家族への支援方法、実践的な介護技術などを学ぶ 研修です。
    介護業務全般の基礎的な知識や技術を学ぶ、[介護職員初任者研修]とは異なり、[認知症介護基礎研修]は認知症ケアに特化した研修のため、[介護職員初任者研修]は取得期間が約1か月ほどかかるのに対し、[認知症介護基礎研修]の取得期間は1日~と短く、費用に関しても数千円とリーズナブルです。

●義務化に対し、取得が免除される資格

    医師、歯科医師、薬剤師、看護師、准看護師、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、介護支援専門員、実務者研修修了者、介護職員初任者研修修了者、生活援助従事者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、訪問介護員養成研修(一級課程、二級課程)修了者、管理栄養士、栄養士、あん摩マッサージ師、はり師、きゅう師など

※受講の対象となる職員が入職された場合は、入職後1年以内に認知症介護基礎研修を受講する必要があります。
※免除される資格の出典:山口県介護保険情報総合ガイドかいごへるぷやまぐち「認知症介護基礎研修の受講義務免除資格等について

▼介護職員初任者研修についてはこちらの記事をチェック!

介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)は働きながらでも取れる? 資格の取り方や研修内容を解説 | ささえるラボ

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認知症介護基礎研修の義務化と虐待事例増加の関係性

介護職員として働かれている方は、このようなケースを想像はできませんか?

介護主任「施設長、人がいません!早く人材をいれてください」
施設長「求人に応募があったから、来月からシフトに入れるよ」
介護主任「よかったです。」
施設長「でも、無資格で経験がないけど大丈夫?」
介護主任「そんなこと言ってられません。食事介助に入ってもらうだけでも助かります。」

この会話の中で、なにか違和感を感じた方は鋭いです。
「えっ、何の研修もなしに現場に入れちゃうの?」ということです。

最低限、認知症の知識は知らないとまずいんじゃないの?と思いませんか。
認知症は、そもそも疾病であること、アルツハイマー型、脳血管性認知症、レビー小体型など原因疾患があること、中核症状と周辺症状(BPSD)があること……
全く知らないで介護ができるのでしょうか?

虐待の話に戻します。
前述した厚生労働省の調査結果から、介護職員による虐待がおこってしまった事業所は、研修や技術指導などが不十分だったことが推察されます。
要は、知識や技術を身につけずに人手が足りないからと現場に入れられて、なんとなくで介護をしていた方が、認知症の方の対応が上手くいかず、衝動的に虐待行為を行ってしまった。
または、職場の誰も満足な技術知識がなかったため、不適切なケアの小さな積み重ねがそもそもの人権感覚を麻痺させ、虐待事例になってしまった……


このような状況が想像できます。

適切なサービス提供を行うためには、介護職の人材確保と同時に教育も同時に行っていく必要があると言えます。

世界の人権意識の高まりと日本国憲法からも虐待防止は重要なテーマである

昨今、世界の人権意識が高まっていることを皆さんは感じませんか?

国籍や年齢、性別などで差別されることなくみんな違って良い。
そして、多様な方がいること、そのなかで互いを認め合い、同じ目的に向かって調和しよう。

このような雰囲気を国際的なスポーツ大会などからも感じますよね。

そのような社会のなかで、「国際社会から見て日本の介護は最先端と捉えていたのに、蓋を開けてみると介護のプロの虐待事例が年々増加している」このような状態を放っておけるわけはありません。

また、日本国憲法第13条「基本的人権の尊重」は、皆さん覚えていらっしゃいますか?
「すべて国民は、個人として尊重される。自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」とあります。

虐待行為は「個人として尊重されている」行為でしょうか?
虐待を辞書で引くと「一方的にひどく扱って傷つける」とあります。
虐待はどんなことがあっても許されない行為です。
ましてや、介護のプロが虐待をするなんてもってのほかですね。

まとめ/認知症介護基礎研修の義務化はよりよいサービスに繋がる

平成28年3月認知症介護研究・研修仙台センターが、「認知症介護基礎研修、実践研修等のあり方 およびその育成に関する調査研究事業 報告書」を公表しています。
これは、認知症介護基礎研修の骨格をどうのように作ったかという報告書になります。

そのなかで、この研修の目的とは、
「認知症ケアに関わるものが、その業務(サービス提供)を遂行する上で最低限の知識・技術とそれを実践する際の考え方を身につけ、チームアプローチに参画する一員として基本的なサービス提供を行うようにできることとした」とあります。

どんな介護事業所も認知症ケアは必須です。
この目的を読んでもまだ「なんで認知症基礎研修なんかやらなきゃいけないんだ!」となりますか?
現場が大変な状況であることはわかりますが、適切な知識・技術を介護職が身につけることは業務改善、サービスの質向上、モチベーションアップなどのプラスの効果をもたらします。

「大変な時こそ学ぶ」ことが大切ですね。

※出典:社会福祉法人東北福祉会 認知症介護研究・研修仙台センター 「認知症介護基礎研修、実践研修等のあり方 およびその育成に関する調査研究事業 報告書
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