利用者さんから暴力を受けた後輩にどのような声かけと対応をするべきでしょうか?
この記事では、後輩が暴力を受けている場合と自身が受けている場合の2つに分けてそれぞれ専門家の方に対応策を回答いただきます!
■本日のお悩み/1つ目
後輩が利用者さんに暴力をふるわれて怖くなって、介護職をやめようか迷っているみたいです。
自分がどうしたいか分からないと言っています。私も相談に乗ったり、できることはしたつもりですが、専門家の方だったらこういうときどんな風に声を掛けますか?
仕事もきっちりやり、いい後輩なので、気持ちは分かるけど辞めてほしくないです。
気合いや根性は必要ありません。適切な対処や対応を学んでいきましょう!
■執筆者/専門家
・けあぷろかれっじ 代表 ・NPO法人JINZEM 監事 介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、潜水士 ▼プロフィール 『介護福祉は究極のサービス業』 私たちは、障がいや疾患を持ちながらも、その身を委ねてくださっているご利用者やご家族の想いに対し、人生の総仕上げの瞬間に介入するという、責任と覚悟をもって向き合うことが必要だと感じています。 目の前のご利用者に『生ききって』頂く。 私たち介護職と出会ったことで、より良き人生の総仕上げを迎えて頂ける為のサポートをさせていただく事が、私たちに課せられた使命だと思っています。 そんな想いから、『生ききる』為の支援の実践者を養成するため『けあぷろかれっじ』を設立。 介護職による介護職の為の有志団体として、セミナーを中心に活動しています。 ご本人やご家族、介護に関係のない一般の方々の想像を超える実践を目指し、現場への提案や助言、実践を行っています。
ご利用者からの暴力やハラスメントは、介護職員にとって大きなストレスとなりますし、職員のケガや病気の問題も発生し、離職の原因にもなりかねません。
実際に私の施設でも同様の事案が発生したこともあり、現場職員にとっては、緊張が高まる問題でもありました。
実際の現場では、
「そんなのよくあることよ」
「私のときなんて、もっとひどかったのよ」
「そんなの気にしないで大丈夫だよー」など、
先輩達や同じ経験をした同僚からも、悪気のない言葉に傷つかれる方も少なくないと思います。
こうなってしまうと、一人で抱え込むしかなくなってしまいますね。
これらの問題に、根性論や間違った介護観を持ち出して、問題をうやむやにしてしまう時代もあったかもしれませんが、我慢をする必要は全くありません。
この記事を参考に適切な対応や手順を選択していただければと思います。この事案に限らず、相談できない職場環境だとするならば、別の問題を抱えている可能性がありますね。
繰り返しになりますが、暴力やハラスメントに遭遇した場合は、適切な対応をすることが重要です。
その「適切」となる具体的な対応方法について、お届けしていきますので、悩んでいる後輩に伝えたり、一緒に対応したりなどお役立てください。
■暴力が発生!対応方法とは
2.暴力やハラスメントの内容や状況を詳しく記録する
3.当日のうちに上司や管理者に報告し、今後の対応を検討する
4.暴力やハラスメントの原因や背景を分析する
(1)発生直後、まずは自分の身を守ることを優先します。
この2つの行動を速やかに実行してください。
その場にとどまり、対応を続けることは得策ではありません。
ご利用者からの暴力やハラスメントがエスカレートしてしまう可能性があるばかりか、支援者がカッとなって逆に暴力を振るってしまったり、身を守ろうとして、ご利用者を傷つけてしまう可能性があります。
暴力やハラスメントが発生したら、できるだけ早くその場から離れ、他の職員に助けを求めるようにしましょう。
(2)次に、暴力やハラスメントの内容や状況を詳しく記録します。
・ケガの程度や部位
・暴力を振るったご利用者の状態や言動 など
上記をメモや写真で残しましょう。
【ハラスメントの場合】
・発言や態度
・場所、時間
・立ち会った人 など
できるだけ詳細に記録します。
これらの記録は、後の報告や対策に役立ちますので、主観はできるだけ避けて、事実をそのまま記載していくようにしましょう。
記録に残す際のポイントについては、あわせて読みたい記事に「【例文あり】介護記録はどう書く?書き方のコツとポイントを徹底解説!」をいれていますので参考にしてくださいね。
・どのような言葉の選択をして、どのようなタイミングで、お声掛けをしたのか?
・その時のご本人の反応や、返答はどうだったのか?
など可能な限り具体的に文章に起こしていくと、状況把握がしやすく、その後の対策が立てやすくなりますので、意識されてみてください。
可能であれば、別室で別のスタッフと再現をしながら検討されてみるのもよいかと思います。
また、記録は時間を空けずに記入するようにしましょう。
現場では、業務の流れや手順があり、記録のタイミングが後回しになってしまうことがあると思います。しかし、詳細な状況を記入するためには、記憶がフレッシュなうちに記録しておくことが求められます。
今後の対策や対応にもかかわる重要な記録となりますので、暴力やハラスメントなどの記録に関しては、特に可能な限り素早く記録に残すようにしましょう。
難しい場合は、メモなどにポイントをまとめておき、想起できるようにしておいてくださいね。
(3)当日のうちに上司や管理者に報告し、今後の対応を検討しましょう。
その際は、暴力やハラスメントの状況や記録をもとに、落ち着いて事実を伝えます。
そして、今後の対応やケアプランの見直しを相談しましょう。
必要に応じて、臨時のサービス担当者会議を開催する必要も検討されますが、まずは情報集めが優先となりますので、職員同士で情報共有のための記録を残していくようにします。
対応した際の暴力の有無や、どのような声掛けを行ったのかなど、普段よりも詳細に、具体的に記録に残していくことが求められます。その際には何のための記録なのかを現場のスタッフには周知しておき、理解を求めておく必要があります。
また、職員に対してのみ暴力やハラスメントがあるのか、他のご利用者さんにも被害や影響があるのかを観察から記録に落とし込んでいきましょう。
普段の様子や精神状態など生活の様子やご本人のストレス状態も評価対象となります。
並行して、不安を抱えているスタッフへのフォローアップを行います。
2人対応で支援していくことなど、ご本人の対応方法について検討し、必要に応じて、医師やカウンセラーなどの専門家に相談する必要も出てくるかと思います。
(4)事後対応 最後に、暴力やハラスメントの原因や背景を分析します。
その際に安易に暴力=精神安定剤と決めつけてしまうのは危険です。
ご利用者の
・認知症の状態
・既往歴や精神疾患(うつ 等)
・体調不良(脱水、便秘、栄養不良)
・生活環境
・人間関係 など
様々な原因が想像できます。
水分が身体から不足し、脱水状態によるイライラの可能性もあり得ますので、様々な要因を検討する必要があると思います。
また、仮に支援者側の対応が不適切だったり、不誠実だったりした場合には、問題をすり替えることになってしまい、適切な専門職としての学びや経験が得られないばかりか、身体拘束や虐待にも繋がってしまうことになりかねません。
専門職として多角的に検証するためには、ご利用者のみならず、
・職員の介助方法 ・職員のコミュニケーションスキル
・職場の雰囲気や方針 など
上記のようなことも関係している可能性を含め、検討する必要があるでしょう。
様々な検討材料を速やかに取りまとめ、多職種によるカンファレンスを開催し、今後の対応や対策、方向性を決定していければよいと思います。
このカンファレンスは、一度のみと決めず、決められた対応対策の履行状況や、有効性についての検証を定期的に行いながら、ご家族への報告と併せて進めていく必要がありますので、丁寧に検証を進めて頂ければと思います。
これらの要因を把握し、暴力やハラスメントの予防や減少につなげていきましょう。
■最後に:利用者さんの人権を尊重しつつ自分の身はまもっていきましょう
介護職員は、自分の身をまもりつつも、利用者さんの人権や尊厳を尊重することを忘れないでください。
また、暴力やハラスメントに遭ったことは、一人で抱え込まずに、周囲の人に相談したり、適切な支援を受けたりすることが大切です。必ず組織やチームで解決していきましょう!
暴力は我慢すべきものなの?事業所が行う対応とは
■本日のお悩み/2つ目
認知症の利用者様から排泄介助、入浴介助に入ると抵抗から、暴力を受けます。
先日、左腕に鬱血痕ができ、上司である主任、部長に報告したところ、「本人に悪気はないから」「自分も若い頃はあったな〜」と昔話が始まりはぐらかされてしまいました。
利用者様に悪気がないのは分かっていますし、わたしの介護の経験や知識が足りていないことも重々承知の上ではあるのですが、上司の対応に疑問と不信感が残りました。
また、利用者様から怪我をさせられた際は職員は我慢するしかないのでしょうか?上司の対応は適切なのでしょうか?教えてください。
「暴力=耐え凌ぐ」時代は終わり。事業所として適切な対策を!
■執筆者/専門家
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 ▶プロフィール 介護福祉士として8年の現場を経験後、33歳で特別養護老人ホームの施設長に就任。現在まで、4カ所の特養の施設長を経験。また、介護福祉士養成校の経営に携わる観点から福祉人材の確保定着をライフワークと位置づけ「茨城から福祉で世界を元気にするプロジェクト(いばふく)」を法人の垣根を超えて横展開している。 令和元年にNPO法人ちいきの学校を設立。元気なシニアが中心となって多世代が笑顔で暮らす新しいちいきをつくることにもチャレンジしている。
ご質問ありがとうございます。
ご利用者に悪気がないことはわかっている、そして、ご自分の介護の知識や経験についても自己分析された上での悩み。加えて頼みの綱の上司からは仕方ない的な対応ではまさに八方塞がりですよね…。
暴力は、身体的苦痛はもちろん心にも苦痛を与えます。質問者さんの心の痛み、苦しみは本当によくわかります。
暴力への捉え方と対応方法を解説しますので、ぜひとも、参考にしてください。
■利用者様から怪我をさせられたら、職員は我慢するしかないのか?
怪我となれば労災保険の適用になりますし、治療にかかった費用などは、就業場所での事故となりますので事業主の負担する保険料によって賄われます。
つまり、就業場所での怪我は事業所として対応しなければならないということになります。
介護報酬改定で、ハラスメント対策の強化が求められている
ハラスメントとは人を困らせること、嫌がらせということになりますが、「カスタマー=お客様」が頭につくことにより、お客様、つまり、ご利用者やご家族から職員が困らせられること、嫌な思いを受けることの対策を事業所が強化するよう求められるようになったということになります。
ということは、質問者さんは、事業所に守られる存在であり、事業所は利用者さんからの暴力に対応しなければなりません。
事業所がすべき対応とは
・ご利用者と事業所との契約書にカスタマーハラスメントの対策を入れ、ご家族を交え対応策を考える
・職員に対するカスタマーハラスメント対応規定を定め、個別に相談できる窓口を作るとともに解決の方法を探る
・カスタマーハラスメントの事実が確認された際は、前述した労災の対応はもちろん、精神的なサポートやケアを実施する
以上のようなことが考えられます。
我慢とは辛いことを耐え凌ぐことと辞書にあります。
「ご利用者さんには罪はない」といって耐え凌ぐしかない文化が、たくさんの介護職員を離職においやってきたことは厚生労働省の調査により明白な事実となっています。
事業者がカスタマーハラスメントから介護職員を守る時代になったということを改めて理解し、対応をするようにしましょう。
■利用者様はどうして暴力を振るってしまうのか?
ご質問の内容から、認知症の周辺症状と言われるBPSD(行動・心理症状)が出現していると考えられます。BPSDは体調や環境を整えることで軽減できますので、適切な声かけなどができているのかを確認してみましょう。
排泄や入浴は、ご利用者の身体に介助者が直接触れたり、脱衣を促したりしますが、認知症により状況が理解できなければ、抵抗してしまうことがあります。
繰り返しになりますが、ご利用者が状況を認識できる声かけなどの方法は適切か?また、便秘などの体調はどうなのか?今一度、見直してみるといいでしょう。
それでも難しい場合は、医療機関に相談することをお勧めいたします。
まとめ:暴力は我慢せず適切な対応を行いましょう!
暴力があった際にはまず自身の安全をまもり、その後適切な対応を行っていきましょう。
適切な対応とは、事業所や上司への報告、利用者がなぜその行動をとってしまったのかの振り返り、今後の対応策を練ることです。
利用者の安全をまもることはもちろんですが、介護職員の皆様も事業所にまもられるべき立場であるということを忘れずに働いていきましょう!
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・けあぷろかれっじ 代表
・NPO法人JINZEM 監事
介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、潜水士