本日のお悩み
グループホームで働いて2ヶ月目です。
利用者様の性的行動に対する対応方法に悩んでいます。どのように受け止めればよいのか教えてください。
■ポイント
これらの詳細について専門家の方に聞いてみました。ぜひご覧ください。
価値観にとらわれず、その行動の背景を想像し適切なケアをしよう
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
ご質問ありがとうございます。
高齢者の性の問題はよくご質問をいただきます。たしかに難しい問題ですよね。
でもみなさん、「性的行動=タブー」という価値観に囚われすぎてはいませんでしょうか?
■「高齢者の性的行動=タブー」という価値観のメガネを外してみよう
メガネを外してみると、以前の記事でご紹介した『それは「症状」か「人格」なのか?』という客観的視点が現れます。そして、その方の生活歴やご家族の証言から認知症の症状ではないか?と仮説が立った時、前頭側頭型認知症を疑う選択肢が見えてきます。
症状だとすれば、社会的判断ができない状況に陥っていると考えられますので、その発端となる感情はどんな感情なのか?と考えることができます。
それは、シンプルに家族と会えない寂しさや、死別された寂しさがあるのかもしれません。
実際に介護の現場であった事例を紹介します。皆さんならこの行動をどのように捉えるでしょうか?
Aさんは、校長先生まで勤め上げた方です。認知症の症状があり、自宅で奥様ひとりが介護するのが難しくなり週末だけショートステイご利用となりました。
礼儀正しく夕食をとられたAさんは居室に戻ると戻られたのですが、ふと様子を見にいくとアルツハイマー型認知症が重度に進行している女性の部屋に入り、ベッドに入ろうとしていたのです。
急いで止めましたが、本人には特に悪いことをしたという認識はありませんでした。
Bさんは農家で地域の消防団にも参加し、気さくな性格からみんなに好かれる存在です。
経過としては、3年前奥様を亡くし、そこから認知症の症状が出て入居となりました。そんなBさんにも懸念する点がありました。それは性的な話が好きです。年配の女性職員は軽くあしらっていましたが若い職員には嫌がられる存在でした。
ある時、同世代の女性ご利用者がいらっしゃり二人でお話しをしていたのですが、Bさんの性的な話を嫌がって喧嘩となる事態となりました。あわてて仲裁に入りましたが、下手すると暴行に繋がるような事例でした。
■価値観を変え、背景を想像するとケアが必要な存在に
さてこの事例、一見、AさんBさんが圧倒的に悪いのではないかと思ってしまいがちですが、認知症の症状とすればどうでしょう。
Aさん、Bさんもケアが必要な存在ではないでしょうか?
お二人とも奥様と離れたり、死別したりという点があります。この別れに寂しさや辛さがあることは受け止めなければなりません。
では、この利用者さんをどう支援する?
では、この寂しさや辛さをどう緩和できるか?
それは、承認欲求を満たす声かけや役割づくり、好きな趣味活動を支援するなどが考えられます。
また、Aさん、Bさんのような行動が見られた時、頭ごなしでダメだとするのは逆効果です。対象者に細心の注意を払いや嫌な思いをされた心のケアもしながら、距離をとる対応が重要です。
■介護の専門職として、客観的な視点を持ちましょう
つまり「なぜこんな行動をとるんだろうか?」 と考えられることが高齢者の性的行動の対処や未然に防ぐこととして専門職に求められるのです。
高齢者の性の問題、介護者側の捉えなおしも必要かもしれません
社会福祉士、介護福祉士、認定排泄ケア専門員、排泄機能指導士 介護現場の職員の後、祖父の在宅介護での後悔と、自身の介護うつ経験から、そのきっかけになった排泄の支援を追求すべくおむつメーカーへ転職。 1000人以上の方のおむつ交換に触れ、介護する側もされる側も双方が「シッカリ出して、スッキリ生きる」ことが、より良い人生に繋がる。気持ち良く「出す」ことをサポートすることで良い循環が生まれることを実感する。
ご質問ありがとうございます。
「高齢者のグループホームに入職されて、そこでの利用者さんからの性的なアクションなどを目にされて驚かれた」
・・・と状況を読み替えさせていただき、私なりの意見をここに書かせてもらいますね。
(ご質問者さんの意図と異なっていたらごめんなさい、その場合にはまた教えてくださいませ)
■タブー視される高齢者の性の問題
さて、高齢者の性の課題はどちらかというと社会的にタブー視され、見て見ぬフリ・考えたくないモノとして扱われることが、まだ多いですね。
「あってはならないもの」
「年をとってまだ性欲があるなんて恥ずかしい」
己に抱く感情や、相手に感じる感情もまた、それぞれであり、その人個人の体験から来る価値観が色濃く出てくる分野なのだと感じます。
ご質問者さんも、「どのように受け止めれば・・・」という表現から想像するに、そんな状態になってもまだ性的な欲があるなんてけしからん!と思われたのかもしれませんね。
実際、ヘルパーさんがご自宅に伺った時におしりを触られるなどセクハラを受けたということがあったり、それがきっかけとなって心的外傷(トラウマ)となってしまい離職につながるなどセンシティブな問題のため、簡単に【高齢者の性を受容せよ】とは言えません。
■介護現場では、高齢者を「性欲のない存在」としたほうが支援しやすい
介護現場では、相手は「性欲のない存在」としたほうが支援しやすいのが事実でしょう。
介護する側とされる側の認識のズレがあることが、根本的な問題につながっていることに、どれだけの方が気付いてアクションしているでしょうか。
ジェンダー問題やセクシャリティについて、近年は少しずつタブー感が和らいでいるのでは?と思えるのですが、一般的にはどうでしょうか?
結果、高齢者の性欲を抑えつけるだけでは根本的な解決にはならないと感じています。
■高齢になっても、性欲は消えない
では、実際の高齢者の方の気持ちは、どうなのでしょうか?
2つの調査から考えてみたいと思います。
日本性科学会が発表した「中高年セクシュアリティ調査」では、「この1年間に性交渉をしたいと思ったことはどれぐらいあるか」という質問に対し、配偶者のいる男性では、60代の78%、70代の81%が、「よくあった」、または「ときどきあった」、「たまにあった」と答えている。
同じく配偶者のいる女性も、60代で42%、70代で33%が、「あった」と答えている。
さらに60代から70代の単身者でも、男性の78%、女性の32%が、「あった」と答えている。
高齢になっても、性欲は消えないということがこの調査からも分かるかと思います。
■高齢者にとっての「性」を捉えなおす
また、内閣府の「平成8年度高齢者の健康に関する意識調査」によると、全国の60歳以上の男女約3,000人のうち、半数近くが高齢者の恋愛や結婚について「良いことだと思う」と回答しています。
高齢者が望む性的関係としては、男性は「性行為」への関心が高い一方、女性は「スキンシップ」や「精神的な愛情やつながり」など、より広範な身体的・心理的活動を含む傾向にあります。
すなわち、高齢者にとっての性は、性欲を満たすための行為にとどまらず、人生の性の経験に関わるすべての活動(セクシュアリティ/sexuality)が含まれてくる、そう思うと少しは嫌悪感やネガティブなイメージは変化しないでしょうか?
■排泄ケアにも関わる介護職として、考えていきたい問題
性やセクシュアリティについては、それぞれの捉え方の変容を促すことは容易ではないかと思います。
ですが、高齢者にとって性の尊重は、QOLの維持、生きがいに影響するものであることを、少しでも良いので心に留めておきたいと思うのです。
私たちだって、人間らしく生きていくために、誰しもが少なからず性的な課題を持つものです。
開けっ広げに誰とでも話す話題ではないかもしれませんが、他人事にして思考をやめてしまうのではもったいない。
私たち自身も、己の性を見つめて生きていければ、もっと豊かな優しい世界になるのではないかな、と感じています。
また、デリケートゾーンと関わる排泄ケアを考えていく上でも、探求していきたい領域です。
みなさんは、どう考えていますか?
ぜひ、またご意見をいただけたらと思います。
【追記】ご利用者同士の恋愛や自慰行為にどう対応する?
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
しかし、性はマズローの5段階欲求説の第一階層「生理的欲求」に位置づけられています。 つまり、人が生きていくうえで基本的な欲求だということです。
そのため、介護が必要な状況においても、第四階層の「承認欲求」を実現する支援、そしてその上位の「自己実現」を叶える支援など、わかりやすく魅力的な支援もある一方で、人間が生活する上で必要な生理的欲求としての性の問題もあるということは皆さんも何となく察がついているのではないでしょうか。
今回は「ご利用者同士の施設での恋愛にどのように対応するのか?」と「対象のいない性的行動(自慰行為)にどのように対応するのか」について解説します。
■ご利用者同士の高齢者施設での恋愛にどう対応する?
1.前提として「個人の自由は尊重する」
まず前提として、私たちは日本国民である以上、日本国憲法第13条の「基本的人権の尊重」を守る必要があります。そのため、仮に認知症の高齢者であっても「個人の自由」は尊重される必要があります。
恋愛は個人の自由ですから、そこは大前提として押さえておきましょう。
2.お互いの気持ちを確認する
その二人には、本当に気持ちがあるのか?を確認する必要があると思います。
同じ施設内でのことであれば、共同生活を送るにあたり、半ば強制的にお相手に会っているというような状況も考えられるでしょう。
3.家族関係への影響を考慮する
もしも、この恋愛によって家族関係などの当事者とのご関係が崩れてしまうようなことがあれば、ご利用の継続に大きな影響が出るかもしれません。
そのような周りへの影響を考慮した際に、「個人の自由」は尊重されるものの、事業所としては状況の観察・把握に関してはしっかり行い、必要に応じて対応方法を組織で考える必要性があるでしょう。
■対応は、状況分析とご家族のご意向を踏まえ決めましょう
ご家族との情報共有も重要でしょう。
事業所の職員による状況分析やご家族の意向を踏まえ対応方法を決めましょう。
具体的には「そっと見守る」のか「施設での共同生活」においてのご協力をいただくか。
はたまた「ご家族に介入していただくか」などを考える必要があると思います。
■対象のいない性的行動(自慰行為)にどう対応する?
行動の意図を考え、対応方法を決める
事業所の職員としては対応方法を考える必要があるでしょう。
前提として、行動そのものはタブーではなく法に触れるものではありません。そのため、その行動のみに注目するのではなく行動の意図や環境を考慮する必要があります。
様々な角度から組織として、情報把握・分析を行ったうえで、今後の対応を考える必要があるでしょう。下記に事例を紹介しますので、事例と共に行動の意図や環境を考えることの必要性を確認してみましょう。
その行為(恋愛や自慰行為)自体がいいか悪いかと言う判断ではなく、その要因となるものや周囲の環境などを総合的に観察・分析・判断をして、本人の自由を尊重しつつ対応していく必要があると言えるでしょう。
■さいごに|ご利用者の価値観は様々であり、多様である
「高齢者は恋愛をしてはいけない」
「高齢者は、自慰行為はしない」
これらの考えが知らず知らずのうちにある場合は、高齢者に対する偏見があるとも言えるでしょう。
特にこれからの日本の高齢社会に向けて、高齢者と呼ばれる方々は、様々な生活様式を送ってこられた方です。
団塊の世代の皆さんは、バブル期を経験しており、海外旅行を楽しまれたり、自分の趣味があったりと娯楽の幅も広く、人生経験が豊富な方たちです。
「ご利用者は多様であたりまえ」という考え方に、私たちも変化していかなければなりません。
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茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)